一、 新年の挨拶と「初釜」:最高格の主菓子で祝う
一月の主役は何といっても「初釜(はつがま)」です。茶の湯において新年を祝う最初の席であり、家庭でのご挨拶や親戚の集まりも、この初釜の精神に通じる「格」が求められます。

- 葩餅(はなびらもち) 初釜の主菓子として欠かせないのが「花びら餅」です。平安時代の宮中行事「歯固めの儀」を簡略化したお菓子で、裏千家をはじめ多くの茶家で新春の定番とされています。白味噌餡と蜜炊きのごぼうを柔らかな餅や求肥で包んだこの菓子は、ごぼうを「押し鮎」に見立て、長寿を願う意味が込められています。親戚が集まる席にこれを用意すれば、一気に正月らしい格式が整います。
- 薯蕷(じょうよ)まんじゅう 山芋を練り込んだ生地で蒸し上げる薯蕷まんじゅうは、茶席でも最も格が高いとされます。新年には、紅色の「賀正」や「干支」の焼印が押されたもの、あるいは中を割ると鮮やかな紅餡が出てくる紅白饅頭などが重宝されます。派手さはありませんが、しっとりとした質感と上品な甘さは、目上の方への挨拶に最適です。
二、 親戚の集まりと新年会:会話が弾む「縁起菓子」
親戚が一同に介し、賑やかに過ごす場面では、取り分けやすく、かつ物語のあるお菓子が好まれます。
- 干支(えと)の羊羹・生菓子 その年の干支を意匠化したお菓子は、誰にでも分かりやすく、新年の話題作りに一役買います。特に切り分けるタイプの羊羹は「福を分かち合う」という意味に通じ、大勢で囲む席にふさわしい一品です。
- 御題(おだい)菓子 毎年、宮中で催される「歌会始」のお題にちなんで作られるお菓子です。例えばお題が「和」であれば、調和をイメージした色彩の練り切りなどが作られます。こうしたお菓子を選ぶことは、お正月の伝統文化を共有する豊かな時間を提供することに繋がります。
三、 成人式:若武者の門出を祝う華やぎ
二十歳(あるいは十八歳)の門出を祝う成人式。この席には、若々しさと力強さを感じさせるお菓子を添えたいものです。
- 「引千切(ひちぎり)」 餅をひきちぎったような独特の形に、きんとんや餡をのせた華やかなお菓子です。もともとは宮中の忙しい祝儀の席で、餅を丸める手間を省くために作られたと言われていますが、その「ひきちぎる」勢いの良さと、色とりどりの華やかさは、新しい世界へ飛び出す若者の門出にふさわしい躍動感を持っています。
- 紅白の「千歳(ちとせ)」菓子 「千年続く」という名を持つお菓子は、末長い幸せを願う席に欠かせません。紅白の落雁や有平糖(あるへいとう)の詰め合わせは、成人式の晴れ着にも劣らぬ彩りを添えてくれます。
四、 春節(旧正月):繁栄と金運を願う「黄金の菓子」
アジア圏で広く祝われる春節。この時期は「福」や「富」を呼び込むイメージのお菓子が好まれます。
- 栗金団(くりきんとん)の茶巾絞り おせち料理の定番である栗金団を、茶席風に茶巾で絞った生菓子です。黄金色は財を成す象徴とされ、春節の時期の集まりには特に喜ばれます。
- 最中(もなか) 「中秋の名月」を指す言葉が語源の最中は、円満な形から縁起物とされます。皮が黄金色に焼き上げられた最中は、豊かさを象徴する手土産として、この時期の集まりに重宝します。
五、 節分から立春へ:厄を払い春を呼ぶ
二月の声を聞くと、暦の上では新年となる「立春」が近づきます。厳しい寒さの中に、春の訪れを予感させるお菓子が登場します。
- お多福と福豆の干菓子 節分には「笑う門には福来る」を体現するような、にこやかなお多福の顔を模した和菓子が並びます。豆撒きの豆を模したお菓子と共に供することで、厄を払い、福を招き入れる楽しい茶席になります。
- 鶯餅(うぐいすもち) 立春の頃、和菓子店に並び始めるのが「鶯餅」です。春を告げる鳥であるウグイスを模したこの菓子は、青大豆の粉(うぐいす粉)の香りが、集まった人々に「もうすぐ春ですね」という喜びを伝えてくれます。
- 「春隣(はるとなり)」の生菓子 「春がすぐ隣まで来ている」ことを意味する「春隣」という銘がついたお菓子。雪の下から芽吹く草を表現したものなど、立春を待ちわびる心境を繊細に写したお菓子は、季節の移ろいを慈しむ日本人の心を和ませます。
おもてなしの心得:お菓子と器の調和
これらのイベントでお菓子を出す際は、ぜひ**「懐紙(かいし)」**を活用してみてください。 お皿の上に懐紙を一枚敷き、その上にお菓子をのせるだけで、それは立派な「おもてなしの席」に変わります。また、お菓子に添える「銘(名前)」を一行、一筆箋に書いて添えるだけでも、集まった方々への敬意が伝わります。
結びに
新年から立春にかけてのこの時期、私たちは「新しく始まる時間」を共有するために集まります。そこに一つのお菓子があるだけで、場は和み、願いが形になります。
初釜のような本格的な茶会だけでなく、日常の親戚の集まりや門出の席でも、ぜひ意味を込めた「茶の菓子」を添えてみてください。その一口が、厳冬を越えて春を呼び込む、最高のおもてなしになるはずです。


